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やさしさ
金子時恵
 娘のことですけども、もう20年も前の話で、中学1年生になった時に笑わなくなってしまったんです。
 それで、“どうかしたのかな?”って思っていたんですけど、本人に聞いても、「ああ、学校、まぁまぁよ」と言って、すぐに2階の部屋に入っちゃうんで、“段々、難しい年頃になってきたのかなぁ”と思っていたんです。
 だけど、すっごく明るい子で、35点をとってきてもドヤ顔で見せていた子が、“なんで、こんな感じになっちゃったんだろう”と思って、それでよくよく、話を聞いてみたんです。塾とか部活で忙しかったんですけど、「今日は塾に行かないで、ちょっと、話そうよ」って。

 それで、いろいろ話しているうちに、「私、みんなに嫌われていて、給食の時間になると、男の子が“ドン”って突き飛ばしてきて、その子に触ると『うっ、汚ったねぇ』って言って、その触ったところを人にくっつけて、ギャアギャアギャアギャア、笑うんだよ」って。
 「そのあと、段々エスカレートして、女の子たちは無視するようになったし、部活の遠征のマイクロバスの中でも、誰一人、隣に座ってくれなくて、寝たふりをしていると私の悪口が始まって、『こんな子、死んじゃったほうがいいのに』って言われた」って言うんです。
 で、 「本当に私、死んじゃったほうがいいのかも」って言われて、私、びっくりして、2人で泣いちゃったんです。もう、どうして、いいかわからなくなっちゃって……。
 そしたら、母が「泣いている場合じゃないよ。早く行こう!」って言うので、「えー、どこ行くの?」って言ったら、「支部に決まっているじゃないの!!」って。すぐに、なんのアポもなく、支部長に会いに行かせていただきました。

 母と一緒に支部に行かせていただいて、その頃の娘は、もう泣かないし、笑わないし、喋らないし……。本当に、下を向いていて、なんにも喋んないので、“どうしょうかな”って思ったんです。
 だけど、支部長は「あんた、いい子だね。自分が言いたいことも言わずに」、「でも、やさしいのと、自分を殺すのは違うんだよ。あんたは何も悪くないからね!」って言って……。
 そしたら、今までなんにも喋んなかった娘がダーって泣き始めて、ワンワン、ワンワン、声を出して泣いちゃうので、私もどうしていいか、わかんなかったんです。でも、それからすごく喋るようになってくれて、本当に、この教え、『聞く 語る』っていうことがどんなに大事か、「うん、うん」って否定もしないで、聞いてくれる仲間がいるっていうことは、どんなに心強いことなのかっていうのが、身に染みてわかって……。その後、娘は高校、大学に行って、社会人になって、結婚ができて、みなさんのおかげで、今日も元気に頑張っています。本当に、ありがとうございました。
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