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なった人の気持ちになって
酒巻敏子
 子どもが3歳の時に障がいがあることがわかりまして、31歳ちょっと前で亡くなったんですけども、23歳ぐらいの時から自宅療養ってカタチで、亡くなるまでみさせてもらいました。
 そういう中で、私も吸引とか痰を取ったり、いろいろしますので、ヘルパーさんも来てもらって、手伝ってもらいながらやっていたんですけども……。
 夜中に、子どもが「おトイレしたい」ってことで、3回ぐらい起きるんですけども、その中で、私も1回ぐらいはなんとか起きていたんです。だけども、疲れちゃって、寝ちゃいまして、その間、主人が2回か、3回は、おしっこをとってくれたそうです。
 そういうことが続きまして、主人も夜中に何回か起きる癖がついちゃいまして、なかなか、眠れないっていうことがあったんですね。でも、私も“主人もまぁ、年相応のアレなのかなぁ”ぐらいに、軽く思っていたんです。

 ですけども、それがずーっと続きまして、今年になってから「眠れない」っていうことで、日本酒を飲むようになって、「飲むと眠れる」って。
 それがその日は眠れなくって、お酒を朝昼晩、何回かにほんの少しですけども、飲んで、それでも眠れない状況で「全然、眠れないんだ」って。「これ飲んで、いつもなら眠れるのに、眠れないんだ」って。
 その姿を見せられて、私、初めて“眠れないって、大変なんだなぁ”って、そういう気持ちになりました。
 それ以外に、夫婦で「人間、ぼけたら、どうなるんだろう」ってことで話した時に、主人は「ぼけた人間は、好きにやってていい」っていうような感じで喋るわけですよね。
 で、私の立場で言うと、面倒をみる立場で“こうしてほしい ああしてほしい”っていうような感じがあって、話しているうちに自分で気がついたのは、“あぁ、私はなった人の気持ちよりも、面倒をみる側の立場で見ていたんだな”っていうのが、初めてわかりました。

 本当に、その気持ちになって、理解……。少しでも、わかんないけど、看る側じゃなくって、なっている人の気持ちになって、考えていく。自分もいつ、ぼけるか、わかんないし……。
 今は、私も主人のことで、「どう、今日、眠れた?」って言うと、「うん、まぁ、何回か起きたけど、なんとか眠れた」って言うので、それが長く続けていければいいなと。
 夜、眠らないでいると、認知症とかそういうのになりやすいんだそうですけども、本人も“ならないように”って、一生懸命、パソコンでいろんなことやっていると思うんです。でも、なった場合のことを考えると、わかってあげないといけないんだなって。夫婦だから、理解してあげないといけないってことを教えられました。
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