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風をはこぶ
森本浩一郎
 1月、2月、3月の下期はどこの業界でもそうだと思うんですけど、多分に、仕事の納期とか、仕事の完成、また竣工、それに伴う書類とかを求められる時期でした。 自分も仕事を2件、3件、4件と抱えている中で、僕とは全然、仕事でつながりのない部下なんですけど、その部下にはアドバイスしている確固たる人間がいるんですけど、なんか、ちょっと、話しにくいっちゅうんですか?
 “こんなこと聞いて、怒られたら、どないしよう?”とかで、俺が夜勤で、会社で残っている時に、こそこそ、こそこそと出てきて、「森本さん、ちょっと、教えていただきたいんですけど」っちゅうのが、2月、3月ぐらい、ずっとありました。
 そこで、自分の知っている、今まで自分が考えてきたことを、他人にそのまま伝えたらええんやっていうのでは、ちょっと進歩がないだろうと。で、自分がこういうことを伝えたいんだけど、これを彼に、彼流にわかるように話すにはどうしたらええんだろうか? を念頭に置いて、その子と接するようになりました。
 その子からも、「いろんなこと教えてもらって、おかげで書類を完成することができました。ありがとうございました」とか言われて、まあ、嬉しいっていうか、まあまあ、しとったんです。

 実は……。数年前、和歌山で親父を亡くした訳なんですけど、自分の伝えたい意志っていうのが、死ぬ前の、末期の親父に対して、伝えられなかったんです。
 親父の認知(症)がものすごくでていまして、夜とか、外を徘徊する癖がでてきましたもので、その時、自分の頭に走っている思いのたけで、ひたすら感情的に「こうやったら、アカンやんか」、「ああやったら、アカンやんか」と。
 終日、親父に接していたもので、生きた会話はできなかったんです。正直、最後の方は、“えらくつらく当たったなぁ”というのが、ありました。
 その中で、親父が発した言葉で、今でも忘れらへんのが二つあるんです。一つは、「お前、きついこと言うな」。もう一つは、「お前はわかれへんねん。わしみたいな身体になったら、わかるわ」と、その二つの言葉がまだ、耳の中に残っているわけなんです。

 そういうこともあって、ともかく、人には、どんな場面でも感情的にしゃべるようなことはやめて、相手にわかりやすいようなカタチで、相手に接していく“言葉のキャッチボールが大事だなぁ”と思いました。
 これからも、しっかりと視野を広げて、風通しの良い環境をつくれるようにやっていきたいと思います。また、田舎に帰ったら、田舎に帰ったで、地域の人とのコミュニケーションも合わせてやってきたいなと思っています。
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