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進化
平井崇之
 今、父はすごく、今までの人生の中で一番、輝いているというか、元気があります。
 昔から蒔絵師だったり、今も水墨画をやっているんですけれども、「職人」という気質で、何かあったら、「うるせえ!この野郎!ばかやろう」というのが当たり前で、お醤油が飛んだりしていたんです。
 私は昨年8月、15年いた会社を辞めて、父の会社に入らせてもらって、看板業をさせていただいています。その中で、やっぱり、今までサラリーマンっていうことで、サラリーマンはサラリーマンで大変な部分があったんですけれども、また全然、違った環境で、“どうやって、やったら、いいんだろう?”と。
 いろいろと悩んでいたところで、やっぱり、父と母と話をすることがすごく多くなって、で、「こうやって、頑張っていこう」っていうことで、チカラをもらえています。

 「今、ここに居て、大丈夫なんだ。このままでいいんだ」とか、「自分が無理な、大きなものを背負ったりしなくていいんだよ」っていうのを言ってもらえて、ものすごくチカラをもらえるので、有り難いんです。
 例えると、弱った時はアントニオ猪木みたいなイメージなんです、僕らだと。ホントに、闘魂注入するみたいな、「元気でやってりゃ、何とかなるんだ!」って言ってくれるんです。そういう父と、この間、父が開発したトラックに吹き付けの看板をするやり方をやっていて、父はもう、75歳になったんですけども、やっぱり、自分が作ったものなので、ものすごく段取りから何から速いんですね。
 なんか、「すごいなぁ」という部分と、「居てくれて良かったなぁ」というか、一緒にやらしてもらえる時間ができて、すごく嬉しかったです!

 あと、前回、来させていただいた時に、僕自身がすごく嬉しかったのは、ここでみなさんのお話を聞いて、帰りの新幹線は母と父と3人で生ビールを買って、飲みながら帰りました。
 その時に、僕、結婚式の最後の言葉で、両親に「ありがとうございました」っていうことをちょっと緊張しちゃって、言えなくて、嫁さんと二人で一つのみかんを二つに分けて、「甘いね」、「酸っぱいね」とか言って、「頑張っていきまーす」なんて話をしちゃっていて……。ずーっと、“ちゃんと、お礼を言いたい”っていう思いがあって、10年経って、やっと、その帰りの新幹線で言うことができて、すごく、スッとすることができて、良かったです。
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