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新しい友だち
澁谷喜恵子
ちょうど、地区の人でもって、一人、「ちょっと、痴呆かかったんじゃない?」って。他から耳にして、それで、前に親しくしてた人だったんで、“ちょっと、放っとけないなぁ”って。
 でも、運動が好きで、年中、ペタンクだとか、グランドゴルフだとか、出歩いているもんだから、私も気にもしていなかったんですけど、“ちょっと、心配かなぁ”なんて思って、様子を見にちょっと、声かけに行ったんです。
 そしたら、そういうことじゃなくて、去年はとても暑かったんで、1ヶ月、運動やなんかが一切、お休みになったんだそうです。
 それで、今まで毎日、出ていた人が出なくなっちゃって、「家の中に籠っていたら、方向感覚が分からなくなった」って。で、9月になってからサロンに行ってね、みんなと交流がもてる場があるんですけど、そこでもって、「これ、置いて来て」って、お茶碗を流しへ持って行く方向を間違えたと。
 1ヶ月間、自分の家だけで生活していたから、流しがこっちだと思い込んでいて、ひょいとそっちに動き出したら、それを見ていた人が「どっちへ行くの?」って。「それがなんか、噂で広まった」って言うのね。
 でも、彼女は「私も少しは利口になったのよ。言いたい人には、言わせとけば良い」って。「どう言われても、私は別に関係ないから」って、その後に無口になったそうです。
 結局、みんなに“何でも”が話せなくなってしまった。「なんか、とんでもないことになって、話が噂になっていくから、それが嫌で話さなくなったんだ」って。そういう感じでもって、私には打ち明けてくれたんですね。
 それで、「年明けたら、遊び行こう! 三島大社へ久しぶりに行ってみない?」って言ったら、「わぁ、嬉しい!」なんて言ってね。「正月が楽しみ」とかって、昨年の暮れに、そんな話をしていたけど、彼女の“こころ”を本当に開いて話し合えるっていう人がなかなか居ない。親しく運動をしたり、お友だち付き合いはしていても、そういうことがちゃんと話せる人っていうのが居ないんだなぁって。

 今年はね、“彼女とちょっと付き合っていこう”っていうことを決めていたものですから、2日でしたけど、三島大社に行ってきました。そいでお茶を飲んで、昼食して、そのレストランの窓際に座って、表を眺めているだけでね、彼女は「良いねぇ」って。
 彼女が家に居ても、別荘地ですから飛び飛びに家があって、窓際に座っていても、外に誰も通らない。
 そういう状況で、私なんかもそうなんですけど、私はただ景色を見ているだけで和むから、人の顔なんてどうでも良いんです。だけど、彼女にしたら、「あぁ、良いねぇ」って。喫茶店でもって、お茶飲みながら外を眺めていたら、「いろんな人が通る」って。
 で、ファッションを見れたり、そういうのが見れているだけで、「あぁ、私、ここに1日、居れそう」って、そうやって、喜んでくださったの。だから、「今度は、春になったら、花見に行こう」とかね。
 そんなことでもって、今年は大いに、ブラブラと近場でもって、楽しみながら、彼女と付き合っていこうかなって、思ったんですね。それと、本当に、歳になってから、手抜きが上手になりましたね。やらないで済むことはやらないことにした。そういうことで、「今年は怠けながら楽しもう!」と思っています。
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