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夫婦は他人♡
林 敬三郎
 家内と結婚して58年になります。思いもよらない家内の病気で、自分の足らないところに気がついたことを話しさせてもらいます。
 実は5年前に「こころ館一日館長」が終わって、それで家へ帰って、アタシが先に入って、家内が後から着いて、そのまんま倒れて。いつも元気なもんですから、結婚してお産以外はとにかく、病気したことないんですよ。薬ひとつ飲んだことない。だから、アタシもあんまり気を使わないでいたんですね。
 そしたら、なんと翌朝、ちょうど日曜日の朝、動かないんで、救急車を呼んで病院に行ったら“くも膜下出血”ということになったわけです。
 約1年間、病院生活で今、このように元気になったんですね。

 アタシは大工をやっていまして、職人っていうのはだいたい、家内のことはねぇ、あんまり気を使わないんですよね。アタシの周りにいた人たちの奥さんがみんな、脳溢血だとか リウマチだとかって、倒れちゃっていたわけですよね。
 その時、アタシはね、“あぁ みんな職人は奥さんに感謝がないから、みんな困るんだな”とそう思っていたわけです。で、アタシは“あぁ、うちのカアちゃんは、しっかりと元気にやっている”って、思っていたわけですよね。
 ところが、自分の身に、この大変なことが起きちゃったわけですよ。その時に、アタシは家内に“あぁ 申し訳なかった”と。それから、アタシは病院通いながら、“自分のこころをどう直せばいいか”ということでやってきました。その中で、一番、私が気づいたことは“夫婦”は他人であるっていうこと。

 家内が病気で入院している時に、意識がないんですよ。目だけパチって。先生は「このまま寝ているとダメだから、家族みんなが通って、話しだけでもかけてください」と、こういうことになったわけですね。で、子どもたち、嫁さん、婿さん、みんな、孫も一所懸命、時間をとって行ったわけですよ。
 その中で、3歳の孫が声をかけて、ワーワー騒いでいたんですよ。そうしたら、意識がほとんどない家内がパッと目を覚まして、起き上がって喜んでいんですよね。
 それで2番目の孫がいて、「分かるかい?」、「分かる」。娘が来て、「分かるか?」、「分かる」。「息子は?」、「分かる」。「嫁さんも分かる」。それで、最後にアタシが「オレ、分かるか?」って言ったら、「分からねぇ」って。
 で、アタシは“あぁ、そうか。孫とか子どもは自分がへその緒で繋がっている。縁で分かるんで、こっちは他人なんだ。他人だから、もう分かんねぇ”って。“いや、これは本当に申し訳ない”っていうことで、一つ悟ったわけですよね。
 毎日、毎日、仕事終わってから通ったんですよ。それでだんだん、ゼロから始まった脳がもう最後には1年後には、すっかり元気に、元に戻ったわけですよね。家内がねぇ、デイサービスに行って、自分じゃ働いているつもりで、お洗濯したり、お掃除したりして……。
 介護に行ってんだか、お手伝いに行ってんだか、分かんないような状態で、そのぐらい元気になっちゃって!
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