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お母さんの覚悟
井貝聡子
 お姉ちゃん、私、弟のきょうだい3人が事あることに集まって、それはグチ大会になるかもしれないんですけど、「こんなところが自分の中で引っかかる」とか、「こういうところが、ああであってくれたらいいのになぁ」みたいなことを話してきました。でも、最終的に行き着くところはいつも、「きょうだい3人、生まれてきて、良かったな!」って。
 「きょうだいが3人で、お姉ちゃんがお姉ちゃんであり、弟が弟であり、この3人やったからこんなふうに確認できて、自分が素晴らしいと思える人生じゃないけれども、そんなふうにしたいよなぁ」って。また、「お父さんお母さんにも、こんなふうに伝えられたらいいよなぁ」っていうことを確認したりするようになったんです。
 その始まりは、私の中では「在家仏教こころの会」に出合って、みんなに自分のこころの中をしゃべることによって、きょうだいともしゃべるようになったんじゃないかなぁと思っています。

 そうやっていくうちに、弟夫婦のところに甥っ子ができて、姉夫婦にも姪っ子ができました。お姉ちゃんはお母さんに対して、“こうであらなければならない”というトラウマ的なものがあったんですが、お姉ちゃんは子どもを生んだ後にちょっと心臓をやられてしまって、お母さんがお姉ちゃんのいる北海道に渡ることになりました。
 で、お母さんは「これまで、お姉ちゃんと向き合いたいけど、向き合ってこられなかった」って。
 その言葉を通して、自分もお母さんと向き合ってこられなかったことを感じた時に、お母さんに「いや、ちゃうで。お母さんがただそばにいてくれるっていうことが嬉しいことなんやで」と言って……。お母さんは「いや、大丈夫や。行ってくるわ」って。
 夫とお父さんと一緒に、空港まで送らせてもらったんです。だけど、「行くわ!」と言って行ったお母さんの覚悟を聞いても、それを心臓がやられているお姉ちゃんには言えなくて……。でも、お母さんは“お姉ちゃんと向き合いたいという思いをもって、お姉ちゃんの所に行っているんやで”というのは、お姉ちゃんにもどこかで伝わってほしいなっていう思いがあったんです。
 だから、お姉ちゃんから電話がかかってきても、「お母さんは、ただただ、子どもを生んだ後のお姉ちゃんのそばにいたいだけや」というのを伝えて、「お母さんはこんな覚悟で行ったんやで!」みたいなんも出そうになったんですけど、“いや、今じゃない。今じゃない”と思って、「そうか」って。
 結局、お母さんは1ヶ月ぐらい、お姉ちゃんの所にいたんですけど、その間にどうしていたかというと、お姉ちゃんの言葉を全部受け止めて、一切、言わなかったって。時折、お母さんから電話がかかってきて、「聡子、お姉ちゃんがこんなん言うねん。でも、大丈夫! ちょっと、やってみるわ!」って。
 その1ヶ月、お母さんはなんにも言わずに過ごして、帰る時に「お母さんとお姉ちゃん、ハグをして帰って来た」って。で、お姉ちゃんはお母さんが帰る前日に手紙を書いたみたいで、そこには“お母さんが全部、受け止めてくれたことで、「お母さん、ありがとう」という気持ちに全部、変わった”って。

 それから、お姉ちゃんは女の子と対峙することがすごく怖かったみたいなんです。「自分が母親として過ごす中で、自分の娘と“女子と女子の関係でのわだかまり”ができてしまうんじゃないか!?」って。で、生まれてきた子が女の子だったので、“どうするんだろう?”と思っていたら、お姉ちゃんは「自分の娘を通して、お母さんを見ることがすごくある」って。
 “お母さんはこんなちっちゃい娘をどんなふうに育ててきたんだろう?”と思った時に、「そういえば、お母さん、私たち子ども3人を両親がやっている喫茶店に連れて行って、喫茶店のお手伝いして、家に帰って来てきたら家のことをして、しかも美味しい手料理を作って、手を抜くことなく、頑張っていた」って。「そんな姿を思い出した時に、“あぁ、お母さんって、ほんまにありがたかったんやなぁ”って。今まで言っていたこととかが、もう全部、感謝に変わった」って。
 「お母さんへの感謝に変わった」という話を聞かせてもらった時に、自分も“話を聞かせてもらえて、嬉しい”気持ちと、お姉ちゃんを通して、お父さん、お母さんに自分の思いを伝えられたり、また、家族の話を聞かせてもらえることで、みんながハッピーになっていく! 自分だけがしあわせなんじゃなくて、お父さんお母さん、お姉ちゃんも弟もみんなでしあわせになっていくのがすごく実感できて、嬉しかったです!
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