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親子ってなんじゃろ?
松尾千代美
 私はいまだに、親に感謝できません。
 自分が生まれてきたことを後悔している時も長かったんですね。でも、私はね、“感謝できんなら、いいんやねぇかな”って思ったんですよ。ほんで、“親を嫌いなら嫌いで、別にいいんねえやろか”って思ったんですね。
 いつか好きになる時もくるし、感謝する時もくるし、でも、それは親の生い立ちや過去、そういうのを全部わかっていった時にわかってくるんじゃないのかなぁって思うんですね。
 自分の人生と同じように、父親、母親の人生もあるんだから、そこをわかっていくこともやっぱり、子どもがわかっていってあげることもできるんじゃないかなぁって感じました。

 なんで、そういうふうに思えたかと言うと、私は父親も母親も嫌いなんだけども、父親が特に嫌いなんですよね。ほんで、なんで嫌いなのかっていう訳があるんですよ。
 父親から、私は殺されかけたんですね。私たち家族は、包丁を持って追いかけられました。それまで、私は“父親に好かれている”って、ずーっと思っていたので、それが一番の恐怖でいまだに“どうしたらいいかな?”っていうのがあるんだけども……。
 その父親が突然、目の前からいなくなって、その後の私たち家族の生活は、貧乏、すごい貧乏だったんですね。でも、きょうだい6人を母親は一生懸命、育ててくれた。その中で、私は劣等感をすごく感じて生きてきたので、感謝もできないままきたんです。

 でも、去年、そういう本音を話せたんですね。そっから、なんですよ。
 変われたのが。
 私はもう父も母も居ないんだけども、でも、話せたなって。話せたことがそうとう嬉しくって、それを帰って、主人にも話すことが少しですけどもできたんですね。そしたら、自分の胸のつかえが少しずつとれていったっていうのを感じたんですよ。
 で、少しずつ、今、「ありがとう」っていう気持ちになれている自分がいると感じています。なので、私は親を嫌いなら嫌いでいいし、感謝できんならできんでもいいし、それはいつかできてくることだし、焦らなくてもいい。
 ただ、親がいる、生きている時に、その「ありがとう」っていう言葉を伝えらえるような人間になっていくことが一番、大事じゃないかなぁっていうことを今、みなさんの話を聞きながら思わせてもらいました。
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