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大晦日の夜
島野孝子
主人と今、二人で住んでいるんですね。でね、主人はあまり、外に遊びに行かないんですね。だから、いっつも、家にいるんです。休みでも。で、「ご飯は何?」とか、「お茶飲む?」とか、なんか、“うるさいです!”っていうかね。
 私は朝起きてから、休みは1日、まぁ、朝、起きたら掃除して、洗濯して、これやって、買い物してと、1日、スケジュールを決めるんですよね。で、「明日は何をするの?」って聞かれるんで、「休みだからこうするよ」って。それで、「僕も明日、休みとったから」って言われると、全部、スケジュールが崩れるんです。
 だから、私は“たまには、一人になりたい”と思っていたんですね。そしたら暮れにですね、「明日からお休みだ」って、「お正月までお休みだ」って言うんで、「じゃあ、田舎へ行ったら」って。お祖母ちゃんが一人でいるんで、「田舎へ行ったら」って言ったら、「うん。じゃあ、そうする」って言った時にね、「頑張ってね」って言いながら、こころの中で“やったー!”って思ったんです。“29、30、31、1日、あぁ、一人だぁ”って、すごい、喜んだんですよね。それで、29日は仕事に出て、その日の夜はゆっくり、私もやった。

 で、翌日なんです。一人で、何にもしゃべらなかったのね。昨日、お花屋さんに行って、「良いお年を」って言ったきり、考えたら、しゃべっていないんですよね。夜ね、「紅白」を見ながら、一杯やろうと思って、お酒は美味しいのを買ってあったんで、“一人で飲もう”と思って、つまみを作って、お蕎麦も作って、一人で食べたんですけど……。
 考えたらね、「紅白」を見ながら「あの歌手は良くない」とか、「この歌は良かったね」とか、こう、話しながら、ケンカしながら、いつも横にいるんですよね。それがいないんです。何もしゃべらないで、ただ見て、ブツブツ、ひとり言を言っているのに、自分で気が付いたんですよね。
 で、あぁ、ケンカするのも、「良かったね」って話すのも、いるから楽しい? って。いてくれて当たり前だったのが、そうじゃなくて、“いないって寂しい”っていうこころに初めて気がついて、やっぱり、ケンカしながらも“ずっと、一緒にいたい”って思いました。昨日、つくづく思いました。

 それで夜ね、12時になって電話を入れたんです。そしたら、電話に出ないんです。そこで、もう、私は“仲良くしよう!”と思っていたのに、電話に出ないから“えーっ!”と思って……。そしたら、向こうから電話、かかってきて、“もう出ないぞ”とか思ったけど、まぁ、いちおう、出て、「明けましておめでとう」って。「電話かかってこないから、私は寂しかった」って言ったんです。
 そしたら、「今、電話しようと思ってたとこだよ」って言って、で、まぁ、いろんな話をして、私が「じゃあ、明日、行くからね。じゃあ、切るね」って言ったら、最後に主人がね、「今年もね、また、いろいろ、よろしく頼むね。よろしくお願いします」って言うんですよ。
 私はそんなこと言ったことなかったんですけど、初めて向こうから言われて、「私はそこまでも言えない自分」ってところも気がついて、「こちらこそ、よろしくお願いします。仲良くやっていこうね」って、「そうだね」と切って、今日、お正月。晴々と、気持ちよく!
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