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Vol.147
頭下げられない男
前原 豊さん
 自分って、素直じゃないなって思うんです。昨日は勤めの関係で、深夜1時に帰って来まして、布団に入って横になったんです。だけども、一睡もせずに自分でハンドルを握って、途中まで来ました。
 朝、息子から“運転するから車のキーをよこせ”と手を出されたんですけど、渡すことができない。自分でハンドルを握ろうと思っていたんです。今までも、ずーっと、他人が運転する車に乗ったことがない。自分で運転しなければ、気が済まない人間なんです。
 息子はそういうところを察していたと思うんですが、結局は、途中から息子が運転してくれて、自分はラクして来られました。“あぁ、助かったなぁ”って。“また、息子に助けられたなぁ”と思ったんです。この息子がいなければ、自分はいろんなことに気がつけない。自分・・・。まぁ、親から繋がって、親父とよく似ている自分に気づき、息子は息子で自分とよく似た性格で、息子を見ていると自分を鏡で通しているみたいによく似ている。
 それで、息子からよく、逆に親のくせに怒られるんです。そうすると、笑っちゃうんですよね。自分が“なんで息子に言われなきゃいけないんだよ”って。“情けないな”っていう自分もいるんですけど、こういう息子をもった自分は、息子からいろいろ教えてもらって、“ありがたいな”と思えるようになってきました。
 ですけど、自分は息子に、素直に自分の気持ちを打ち明かすことがなかなかできない。それは、父親というプライドが邪魔しちゃって、なかなかそれが言えない自分。“情けないなぁ”って思うんですよね。で、車で帰るわけですけど、先ほど、息子に「今日は運転するのかい?」って聞かれた時に、「今日は任せるよ」って。そばにいて、ずーっと、“息子の運転で帰りたいなぁ”っていう思いでいます。
 その息子に対して、先ほど言いましたように、素直な気持ちになれない。今、25歳になるんですかね。うちは息子が3人いるんです。で、一番下なんですが、3人の誰に対しても頭下げたことがないんです。とにかく、とにかく、頭下げるのが嫌いな男なんですよね。
 恥ずかしいんです。当人がここにいるから恥ずかしいんですけど、この息子に対して、「ありがとう」って言いたいと思います。「ありがとうございました」。