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Vol.142
待合室にて
木下冨美子さん
 先日、実家の母と皮膚科の病院に行ってきたんです。で、母と待っている時に、待合室でうちの母と同じような年齢の方が、「これ見て。ちょうどゴールデンウイーク中にこういう皮膚になっちゃって、市販の薬塗ったけど、全然治らなくってね」って、いきなり私に話しかけてきたんです。
 私が「ああ、そうなんですね」って返事をすると、母が話しかけてきました。うちの母は認知症にかかっているので、私が「母さん、ちょっと待って。私、今、話しているからちょっと待ってね」って言うと、その女性が「えっ、どうして止めるの?」って私に言ったんです。
 私は「いや、あのちょっと、うちの母は認知症なんで言ってることがわかんないかもしれないんです」って言ったら、その女性に「いや、それはダメよ。ちゃんと話を聞いてあげないと」って。“えっ!”と思って、そこで私も気がついたんです。

 その時に女性が「でもあなたも偉いわね。こうやってお母さんを病院に連れて来て」って言われて、私は母のことなんで普通にやっているつもりだったんですけど、「親孝行ね」って言われて「あぁ、そうなんですかね」って。
 私はその女性に「失礼なんですけど、おいくつですか?」と聞いたら、「七十歳ちょっとなんですけども……。いや私は実は……」って、自分の身の上話を始めたんです。
 その話は、小さい時に母親と生き別れになった、という話で「それでも私はこうやって生きてきて、いろいろあったけれども、今、六十歳を過ぎてから自分の話を他人様にできるようになった」っていうことを私に話しかけてきたんです。

 その女性は、自分の母親を探したことがあって、なんとか母親に会えたそうなんです。でも、お母さんは再婚されていて、会った時に「私の子どもじゃないよ」って言われたらしくて、その女性はすごくショックを受けたそうです。
 「そのことがあって、私はもう母親っていうか、人間不信になったんです。で、どうやって生きていこうかって……。まあいろんな宗教とかもやってみたんです」って言った時に、「いや、私、在家仏教こころの会をやっているんですけど……」って言おうかなって思ったんですけども。
 その女性は、いろいろな人と出会う中で、自分の話をしたことに対して、みんな、話をしてくれたって。“なんか、こころの会によく似ているな”って思いながら、ずーっと聞いていました。

 で、私がふと、「でもお母さんがいて、今あなたがいらっしゃるんですよね」って言うと「そうなのよね。やっぱり親がいて、自分がいたのよね」って言われたんです。
 その時に“なんか私、知らない間にこころの会のこと言ってるなあ”と思いながら、“先祖供養の話をしようかな”って思ったんですけど、そういう時に限って、その女性が診察室に呼ばれちゃったんです。
 その後に“あっ、私、知らない間にちゃんとこころの会のこと、人に、会員さんじゃない人にも自分で言えているんだ”ってことを感じました。
 それから女性が出てきて、お会計をしている時に、ふと、私のほうを振り返って、「いやぁ、今日は良い日やったわ。先生にこの傷を治してもらう薬も出してもらったし、あなたにも、こころの、こういう薬じゃないけど、勇気もらえたわ」って言われて。
 “あっ、うれしいな”って。