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Vol.137
いなければいい……
浦谷次郎さん
 誰もが人生、生きていれば、“この人さえいなければ”と一度は思ったことがあると思うんですね。
 前の職場で新しく入ってきた子が、まぁ、宇宙人? 簡単にいうと、言葉が通じないというか。「こうだよ」って教えたことをまったくやらずに、別のことをやってしまう。それがだんだんとストレスになって、“こいつさえいなければ”と思うようになったんです。
 でも、関わっていくうちに“あれ? 誰かに似ているな?”と、ふと思った時に、昔の自分に似ていたんです。昔の自分って、「無感動」、「無関心」、「無責任」だった。
 そうすると、“なんだ、こいつ”と思っていたけど、親しみを感じてきました。「いなければならない人なのではないか」って、思い始めたんです。じゃあ、ちょっと真剣に育ててみようと。怒っても、右から左で全然、効果がない。じゃあ、怒っちゃダメだ。
 子どものように、失礼な話ですけど、五歳児を相手にするように教えていくと、ちょっと、効果があるぞ、と。
 自分が(会社を)辞めるまでの三年間、彼は意見を一切、言わなくて。会議でも何も言わない子だったんです。
 で、自分が辞める最後の日に会議があって、「自分はもういなくなるし、君の代弁はもうできない。今度から自分でしっかりやらなきゃね」と言ったんです。そしたら、「ハイ」って。
 「ハイ」って言ったけど、ちょっと、無理かなぁと思ったんですけど、最後の会議の時に初めて、自分の意見を言ったんです。
 ああ、自分のやったことが無駄ではなかったし、彼によって自分もすごく育てられたなって、ひしひしと感じました。
 教える、教えられるっていう上下の関係ではなく、お互いに育ててもらっている。これって“平等なのかな”と。