No.35

苦しみの先に、まだ変われる自分がいた!

埼玉県行田市 山田栄子(51歳)

 就職しても1カ月しないで仕事を辞めてしまう息子。 “なんで!” “なんで!!” と周りの子と比べて、悶々とした容易じゃない気持ちだったという山田さん。
 でも、「こころの会」(同志の会改め)の仲間に自分の気持ちを聞いてもらい、職場で話を聞かせてもらう中に、息子と向き合うヒントを見つけた。
 今、「そうなん」「そうなん」と人の話を聞ける、相手の話を待てる自分ができつつある。

まったくうちの子は!

 今年23歳になる長男のことで、悶々とした容易じゃない気持ちを抱え、苦しんできました。
話は4年前に遡るんですが、息子は高校を卒業して就職したんです。それも今振り返るとテキトウで、「面倒臭いから残りもんでいい!」って。私が「よく考えて決めたほうがいいんじゃない!」って言ったら、「決めちゃったからいい!」って。でも、1カ月もしないうちに「辞めるよ」って。「なにを?」って聞くと「仕事。やっぱし、土日休みじゃねぇとイヤだ」って。
常日頃から近所に住む前原豊さん享子さん夫妻に話を聞いてもらっていて、息子が会社を辞めた時も「まったくうちの子はしょうがないんだよ」と話を聞いてもらったんです。前原さん夫妻にも同年代の息子さんがいて、「気持ちはよくわかるよ。でも、辛いのは息子さんじゃない?」って言われたんです。
でも、私は “なに言ってる? 私が容易じゃないじゃん! 私は一生懸命に親をやってきたし、今もやってる!” と、まったく理解ができなかったんです。

容易じゃないんだよ…

 就職しては1カ月も経たずに仕事を辞め、職を転々とする息子。なんで辞めるんだ! なんで勤まらないんだ! 周りの子が仕事をしている話を聞くと、周りの子と比べて、 “息子は劣る” “息子は足りない” と悶々とする。家でゴロゴロしている息子との違いに焦りを感じ、容易じゃなくなる。でも、この私の気持ちを誰もわかってくれない……。
そんな気持ちがいっぱいの私を、前原さんが「こころの会の実行委員会があるんだけど、来てみる?」と誘ってくれたんです。私は「行ってみたい」と思い、熊谷地区の「こころの会」(同志の会改め)実行委員会に参加してみました。
そこで、息子と向き合えない気持ちを「容易じゃないんだよ」と素直に話すと、「大変だったね」って実行委員の仲間が受け止めてくれたんです。私は “ここにも居場所がある” と感じられたことがうれしく、実行委員会の場が私にとって癒しの場になりました。いつもいつも私の容易じゃない気持ちを聞いてくれて、「こうじゃない?」「ああじゃない?」と、それぞれに経験や意見を言ってくれるんです。それでも、私は「いや」「だって」「でも」っていう言葉がついつい出ちゃうんです。
そして、実行委員会の仲間からも「一番容易じゃないのは息子さんなんかな?」って言われたんです。それでも、私はすぐには理解できなかった。でも、徐々に徐々に、私の容易じゃない気持ちを話すうちに、人の話が少しずつ少しずつ聞き入れられるようになって、 “一歩踏み出してみよう” という勇気をもらえたんです。
ちょうどそんな時に息子から、「母さんは世間体しか考えてねぇ。俺のことを一つも考えてねぇ」って言われちゃったんです……。
この言葉で初めて “息子も容易じゃないのかな?” って。やっと “どこが?” “なにが?” と自分に問いかけられるようになったんです。そして、 “今のままじゃいけない” と気づけたんだけど、それでも変われない自分がいて悶々としていたんです。

私が聞かせてもらおう!

 10年前から特別養護老人ホームに勤務し、息子との関係と併行して、利用者と “どう接していけばいいか?” と悩んでいました。そんな中、前原さん夫妻や実行委員会で話を聞いてもらったことがヒントになって、今度は “私が話を聞かせてもらおう” って。人生経験が豊富な施設利用者に対して私ができることは、ただただ話を聞くことしかなかったんです。
利用者はさまざまな気持ちを抱えていて、「なにか、あったん?」って聞くと一生懸命に話して、「そうなん」「そうなん」と聞いていくと少し落ち着いて、「大変だったね」というひと言で表情が変わるんです。私も同じだったと思うんですけど、「大変だったね」というひと言で、自分の気持ちを受け入れてもらえたと感じられるんです。
話し終えると、ニコッとした顔つきで「また聞いてね、ありがとう」って言ってくれるんです。私は「ありがとう」と言ってもらえることがうれしかったし、 “話を聞かせてもらうだけでこんなに人は喜ぶんだ” と、ここで確かな手応えを感じたんです。 “相手の話を聞くことって、本当に大事なんだな” と。
その時、 “あれ?” って。 “これって職場に限らず、家庭でも同じなんじゃないん?” と、私の中で重なる思いがあったんです。
私は自分で何でもやらないと気がすまない性格で、人の話を聞くことがすごく苦手だったんです。だから、家族の話も聞いてこなかったし、聞ける余裕もなかった。でも、これからは家族の話も「そうなん」「そうなん」と聞いて、聞いて解決できることは何もないかもしれないけど、聞かせてもらおうって。息子の話も聞ける、聞かせてもらえる自分になりたい!って。

決めつけでは会話にならない

 今までの “息子と向き合わなきゃ” という気持ちは結局、つもりだけだったんです。常に悶々とした容易じゃない気持ちがあったから、息子に「なんで、いろんなことを話してくれないん?」って素直に聞いたんです。そしたら、息子は「だって、決めつけた言い方をするじゃん!」って。「そうなん、じゃあ、言いづらかったね。悪かったね」っていう言葉が、自然と会話の中で息子に言えたんです。
この会話がきっかけになって、息子自身が思うことを、本当に少しずつ話してくれるようになって、会話ができるようになったんです。
時間はかかったんですけど、息子との関係で足りなかったのは、自分の気持ちを直接、素直な心で息子に聞けない私自身だったんです。親も子供に気を遣うんですよ。 “言ったら、怒るかな?” と思うから “しょうがない。やめておこう” と我慢して、我慢しているから腹の中で “息子は足りない” “息子は劣る” と悶々とする。でも、今は悶々としたものがないんです。もちろん全然ないわけじゃなくて、 “まったく!” と思うこともあるけど、変な気構えや変な気遣いはなく「どうなん?」って聞けるんです。

人と比べなくていい!

 息子との会話も、今まで「こうだよ!」「そうでしょ!」と言っていた言葉の尻を、「こうじゃないん?」「どうなん?」って。息子が話しやすいように、 “なんでも話して” という身構えで、 “私でよければ、話してみて” という気持ちで、会話をする努力を私なりにしています。
今、息子はアルバイトで1カ月ぐらい勤められているのかな? 息子が選ぶ職種は製造系で、10人ほどの従業員と働ける現場なんです。転職の甲斐もあって、的が絞れてきている気がします。
先日、息子とこんな会話があったんです。息子が帰って来るなり、「先輩から『手が鈍いから仕事の効率が悪い』って言われた。でも、俺はまだ3日しかやってないんだ」と私に話してくれたんです。息子はそういう周りの人の言葉を真剣に受け止めて、容易じゃなくなって仕事を辞めちゃうんです。今までわからなかったけど、息子との会話でだんだんと私もわかってきました。
だから、「3日じゃ覚えられないこともいっぱいあるよね」って。でも、その先輩を自分に置き換えると、自分の見方でしか注意ができない先輩の気持ちもわかるから、「先輩は何年も仕事をしているから、『遅い』って言っちゃったんじゃないん?」って話したら、息子も「そうかもしれない」って。「まだ3日だよ、めげる必要はないよ。でも、できないものはできないと認めて、自分なりに努力すればいいんじゃないん?」って。以前は息子と周りの子を比べていた私が、 “人と比べなくていいんじゃない?” って言える私に変わっていたんです! 最後に「もう少し頑張って続けてみたらどうなん?」って言ったら、息子も「そうだね!」って。

まだ変われる自分

 人の話を聞ける自分になりつつある根底には、前原さん夫妻や実行委員会の仲間が私の悶々とした容易じゃない気持ちを聞いてくれて、受け入れてくれたことが大きいんです。私の話を聞いてくれる場がなかったら、以前の私を続けていただろうなって。
お正月に久保克児副会長が「まだ変われる自分」と話されて、私もまだ変われる自分に挑戦したい! 一生懸命に親をやっているつもりの頃は、子供を思い通りにしたいという気持ちから「私の話を聞きなよ!」って、子供がひと言言う間に私が三言(笑)。その三言の中に「そうじゃないよね!」っていう決めつけがあると、子供は会話を続けてくれなくなるんです。でも、今は “いろんな考えがあって当たり前” と、「そうなん」「そうなん」って子供が話し終わるまで待てる自分ができつつある、できつつあるのかな!?って。まだ発展途中で挑戦中です。
子育てって、子供が生まれた時からずっとなんですよ。だから、思い通りにならないと面倒になって、 “この子がいなければ、私は自由になれる” っていう思いで子供を責めていた時期もあったんです。
あの時の子育てを今の自分でできたら、 “子供の思いを感じて、こういうふうにできたのに” という思いや、 “こういう時はもう少し優しい声のかけ方ができただろうに” と思えるひと言があるんです。でも、それも遅くはないんですよね。言葉にすると過去形になるけども、まだ変われる自分がいるということは、これからチャレンジできる!っていうことですよね。

目の前に私の道が…

 息子との関係で悶々としていた時期も過ぎ、一つ山を越えられたのかな!? 私もやればできるじゃん! 私の自信になりつつあります。そして、 “苦あれば楽あり” じゃないけど、苦しみの先にはまだ変われる自分がいた! 息子とのことがなかったら、変われる以前に人の話を聞けない自分に気づかない自分だったと思うんです。息子のことがあったからこそ、人の話を聞ける、待てる自分がいるとすごく思えるんです。もちろん、全部が変わったわけじゃないけど、気がつかないと変われないです(笑)。今は腹の中に思うことがないし、自分自身も本当に楽なんです!
職場の利用者との会話も、今は笑顔と笑いがあるんです。利用者の中には一人暮らしの人もいて、意外と笑う機会が少ないんです。だから、私が自分の失敗話を話して、笑ってくれたり、笑ったり。相手を笑わすってことは、私も笑うんですよ(笑)。それで先日は施設長に「私、利用者のこころのケアを頑張ります!」とでかいこと言っちゃったんです。施設長も「山ちゃん、頑張りな」と言ってくれて、言ってしまったからには “人の話が聞ける、聞かせてもらえる自分” を目標に、これからも私なりに頑張ります!

(大きな乗りもの 2008年10月号)

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