No.26

「しあわせ」はこれから! 家族みんなの決心。

高知県高岡郡 岡本 謙 (69歳) ・ 保子(66歳) ・ 珠実(39歳)

 ご主人の謙さんの長年のアルコール依存症。これ以上の苦しみはないと、家族それぞれが苦闘した。母親を守るために闘った娘の珠実さん。私さえガマンすればと仕事に没頭した奥さんの保子さん。そして当の謙さん自身も、やめたくてもやめられない自分に苦しんだ。
そんな岡本さん一家の現在のそれぞれの思いを語り合っていただいた。

よう酒をやめられたねえ

保子 オトウサンがお酒をやめてから何年になるかなあ。6年かな……。
珠実 そうね。
 平成12年やったな。その時に、酒だけは断たしてもろうた。
珠実 酒だけはね(笑)。もう家族がボロボロやったもんね。
保子 人間らしい正常な時間というものがなかった。こんなにしてゆっくり話すなんてできんかったからねえ。
珠実 話し相手にもならんしねえ。私とお母さん、それに時々弟が入ってきて、3対1って感じ。お父さんは家族じゃなかった。
 まあ、夜でも目が覚めたら飲みよったからな。24時間ぶっ通しじゃ。他人に恥ずかしいなんていう気持ちは全然ない。
保子 お酒をやめてくれただけでもたいしたもんやったき。でも、ようやめられたね。
 何回もやめよう思うた。少し酒が醒めた時に。身体もいかんようになるし。それに、なんぼみんなが気が長いいうても、人間、辛抱するにも限度があるろうと。けんど、やめられんかった。アル中になったら、ちょっと飲んでやめちょこう思うても堪えられるもんやない。「よしっ、これでやめた!」言うて、2日と続かん。一口飲んだら……。
珠実 コントロールする力がなくなる病気やね。アルコール依存症の本もずいぶん読んだけど、たとえば家族の誰かがアルコール依存症になったら、その人は大きなお荷物になるので、その人に振り回されずに生活しましょうと書いてるんやけど、そんなことできるわけがない。一緒に暮らしていたら。医学がこれだけ進んだ世の中で、アルコール依存症ぐらい治せんもんかなあって。
 もう自分の身体もいかん、家庭もようない(よくない)。これでようやめられんかったら、死んだ親父の元に行くしかないと。いよいよ最後の決心よと思うて……。
珠実 けど、100パーセントお酒をやめてくれるっていうような期待は、それほど持ってなかったなあ。まあ、きっかけになればいいかなあって。やっぱり断ちたいというお父さんの気持ちが強かったんやね。

安らぎの日々

保子 今はホントにもう、お酒を断ってもらったことで、家族みんなが心の安らぎを感じてる。人間らしい人になった。オバアチャンにも尽くしてくれるようになったし、やっとホントの親子のいい関係をさしてもらってると思ってね。オトウサンも楽になったやろ。
珠実 今までは、一度たりともオバアチャンの部屋に足を踏み入れなかったもんね。それが一緒にテレビを見ながら話をするようになった。ものすごい変化やねえ。
保子 以前は、オトウサンの姿が見えんかったら、どこで何をしゆうろう思うて、不安で心配やった。心の安らぐ時がなかった。今は昔のことがウソのように、全然気にしなくていい。それだけでも楽。
 ワシも楽になったもんよ。自分で酒をやめたら。うん。じゃが、みんなが、酒をやめて偉いのう、たいしたもんじゃと言うてくれるが、偉かったら、とうにやめちょる。散々にウチのもんに迷惑をかけて、もうこれではどうもならん、始末に負えんようになって、いよいよやめる気になってのう。
で、全部言いや、言うて恥をかかないかんいうことで、みんなの前で話したわけじゃ。その上、奥さんの保子さんも悪い言うてワシを弁護する弁護団(笑)がおるが、そりゃいかん。ワシをほめたらいかん。ほめられるようなもんじゃないけぇ。
珠実 私にしてみれば、お母さんがあんなに長い間ガマンしてたってことが不思議。お母さんは、しあわせになりたいという気がないんじゃないかと思うくらいやった。もっと早く爆発しちょったらよかったのに。
保子 もっと早く爆発しちょったら、もっと早く解決しちょったかもわからんね。
 そしたらやめちょったかもわからん。
珠実 それはどうか……。
 そりゃあものすごい気が長い。長いっちゅうもんじゃない。おまえの親もそうじゃ。人を悪うに言うのも、ひと言も聞いたことのない親じゃ。
保子 何でも辛抱辛抱っていう時代やったからねえ。実家の母に訴えても、「あの人は悪い人じゃないき、そんな悪う思うな」って。
珠実 今の若い人だったら、すぐ実家に帰っちゅうね。お酒は飲むわ、浮気はするわじゃねえ。私やったら耐えれんろうなって。やっぱり人間、辛抱だけが美徳じゃないぞって思う。

本音をさらけ出してよかった

珠実 結局、大人になってないっていうかねえ。いつまでたっても子供のまんま。
保子 母とオバアチャンとの関係、それからきょうだいがない。で、父親がいない。そういう環境の中で育ったから、男親はこうあるべきっていうことが全然わからないんやね。自分も親にしてもらってないから。オトウサンも被害者。安らぎがない家庭やったから……。
 安らぎを求めて、そのおもしろないことを酒で鬱憤を晴らすということも相当あったと思う、今考えてみりゃね。そらぁ、おまんの言い逃れよと言われるかもわからんけんど。
珠実 私はね、子供心に思いよった。この人はホントに想像力というものが欠けちゅうって。こうしたら家族がどう思うかっていうことがスコーンって抜けて、自分がやりたいように突っ走る。アクセルだけで、ブレーキがない車。フフフ。
 うんうん……。
保子 でも、外の人にはそんなに悪うに言われるような人じゃない。
珠実 そうそう。もう外へ外へと目が向いてるわけ。もうちょっと家族に目を向けてほしい。そのへんが、まだ少し不満かな。
 子供でも、キャッチボールでもしちゃった、遊んじゃった、いう記憶は全然ないな。「また酔うてオバアチャンとケンカしよら」という思い出しかないはずじゃ。
珠実 ないない!
 ワシ自身が、親父にこうしてもろうたという思い出がない。
珠実 そんな父親を見たら、もう「死なんとわからん」って。親を見下げて暮らしてきた。でも、治ったね、時間はかかったけど。
保子 私もバカにしてました。そこが私の悪かったとこ。
珠実 でも、みんなに言うてよかったね。お互いに家族みんなが気持ちを素直に言うたから解決したんやから。そしたら、それを聞いた人が、別の場所で、同じような体験を本音で話してくれたって。すごいことやね。でも、「みんなの前であんな恥をさらさんでもええのに」という意見もあるし、賛否両論やね。
お酒をやめても、別に性格が変わったわけじゃない。人間の性格って、そうそう簡単に変わるものじゃない。今でも毎日、小競り合いやしね。ほんっとに毎日が賑やか。隣のおばちゃんが、「ここの一家団らんのとこに来たらすごい血圧上がる」って(笑)。
 「やかましいっ! おまえらガタガタ言わんとついてこい!」じゃねえ、性格は。

初めての家族旅行を計画

珠実 今度、初めての家族旅行やね。一泊でコテージ借りて……。
 ワシはイヤでイヤでたまらんがじゃ。性に合わん。
珠実 今まで一度たりともなかったからね、家族で何かをするという経験が。私らも一緒に行くことは、なかなか面倒臭いことは面倒臭いことなんやき。けど、やっぱり家族として今までやってこなかったことをやってみたい。実験じゃないけど、フフフ。
 まあ孫も行くき。孫と言えば、孫が書いた詩が「やまもも」という詩集に載ってラジオで放送されたがよ。『高知新聞』にも載った。『家の光』にも載せさせてくれんかというてきとる。
珠実 家族のこと、お父さんお母さんのことを、すごいあたたかい視点で書いてる。私、それを読んですごいうれしかった。
 短い詩やけど、これは誠に素晴らしい。

        ぼくがおとうさんになった   
上ノ加江小二年 岡本 祐典

ゆうべ、おとうさんがつりに行った。
おとうさんが、いなかった。
おかあさんが、
「ゆうすけ、
おとうさんが、いないときは
おとうさんのやくしい、
男は、女をまもるがで。」
と言った。
ぼくは、おとうさんになった。
おとうさんのふとんをだした。
おとうさんの毛ふをきて、
おとうさんのふとんでねてみた。
おとうさんになった気もちになった。
つぎのあさ、
おとうさんのお茶わんで、
ごはんを食べた。
おとうさんのようになれるかな。
ぼくは、おかあさんをまもれるかな。

 (高知新聞社こども詩集「やまもも」第30集)

保子 私、この子をこんな優しい子に育ててくれてありがとうって、嫁にお礼を言うたよ。
 ワシがそんなことをようしちょらんもんじゃけ、これを読んでからに、それがたまらんかった。こじゃん(たくさん)とかわいがって育ててもらわにゃいかんに、お袋にこんなことをして、ものすごいかわいがってもうたという記憶がない。ガンガラガンガラ(ガミガミ)言われたがや。
珠実 でも、しあわせはこれから。これからしあわせになる!
保子 ほんっと!
珠実 だからねえ、今回の旅行にしても、やっぱり今までやり残してきたことがいっぱいあって、うちの家族には欠けてるものがいっぱいあるから、それをちょっとずつ埋めていきたいなって。お父さんは渋々やけど、無理矢理に連れて行く。
保子 家族と一緒に楽しむっていうこともしたことがないがやからね。
 ないない。長男が孫とキャッチボールをし出したのを見て、ワシはこんなことは一回たりとなかった。酒ばーっかり飲んで……。子供のことを思うじゃの、女房のことを思うじゃの、親のことを思うじゃのいうようなことは、さらさらなかった。
珠実 旅行、うるさいろうねえ、多分。
 もうー、イヤでイヤで(笑)、たまらんっ! お通夜に行くような気持ちじゃ。
珠実 けどねえ、それぐらいはしてくれてもええかなって思うねえ。
保子 そうねえ。
 もうおまえらも、前みたいにガンガラガンガラ言わんように。
保子 アハハハハ!
珠実 お父さんのほうこそガンガラガンガラ言わんようにね。
 もう手を握るようにしようや。
保子 フフフ。
珠実 そろそろねえ……。
 もう余命幾ばくもないけども、利口もんにならないかんしよ。
珠実 いや、わりと長生きすると思う。
 珠実はなんぼになってぇ?
珠実 39やき。
 来年は40かい。
珠実 恐ろしいよぉ!
 こらぁ困ったもんでよ。はよ結婚してもらわな。

(大きな乗りもの 2006年09月号)

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