【しあわせになる本の紹介】 No.01

子供たちの思いになって、
親子の縁を結び直すお手伝いをしていきたい。

千葉県千葉市 大森登紀子(62歳)

一人の人間として向き合う

 私は、千葉市の蘇我という所で保育園をやっております。主人の父親が50年前に創設いたしました保育園ですが、6年前に義父が他界したのを機に、その後、私が引き継いで今日に至っております。
保育園では、生後57日目の赤ちゃんから6歳までの子供たちを130名お預かりしております。職員は、パートの職員を含めて35名。朝7時から夜の7時まで保育しております。
保育の内容につきましては、日々職員間で切磋琢磨しておりますが、一番大切にしていることは、どんな小さな赤ちゃんであっても、一人の人間として、一人の人として向き合っていこう、ということです。
『この“自分”で生きる “ここ”から生きる』という本があります。私たちの会の副会長である久保克児氏が書かれた本ですが、この本の一番最初に“父へ母へ”という詩があります。

     父へ、母へ

 どんな娘であったら
どんな息子であったら
お母さん
あなたは満足するのですか
お父さん
あなたは満足するのですか

 この わたしでは
いけないのですか
このまんまの ぼくでは
いけないのですか

 お父さん
お母さん

 こたえてください

この詩は、子供の権利を主張している、すごい詩だと思います。
この詩に出合った平成4年からずっと、折にふれて職員やお父さんお母さんたちに、この詩に込められた子供たちの思いを伝えてまいりました。でも、日頃子供たちの姿を見ていると、私たちにはどうしようもないことがたくさんあります。
ちっちゃな赤ちゃんが、今日は一日グズってるけど、どうしたんだろう。そう思っていましたら、お父さんとお母さんが赤ちゃんを預けに来る時に口ゲンカをして、そうして預けていったんですね。ああ、これかなって。
また、4歳の男の子なんですけれども、みんなはお昼寝の時間にお布団の中でスヤスヤと眠っているのに、その男の子だけは座ったまま居眠りをしている。で、眠ったからそうっとお布団の上に乗せると、またパッと起きてしまう。どうしたんだろうと思っておうちの方に聞きましたら、お母さんが家出をして帰って来ないと。それで、その男の子はお母さんの帰りを待ってるんですね、寝ないで。そのお母さんは、幸いにして1カ月ぐらいして帰ってまいりましたけれども。

突然荒れ始めた兄妹

 去年の6月頃でした。本当におとなしくて、クラスでリーダーシップをとるような頭のいい5歳の男の子。下に3歳の妹さんが一人います。その2人が急に荒れ始めたんです。
静かに遊んでいるお友達の背中を蹴り上げるとか、ガラス窓を壊すとか。妹さんのほうは、お友達をつねったり意地悪したり。そんなこと今までなかった姿なんです。どうしたのかしら? お父さんもお母さんも忙しいから、スキンシップができてないのかな? そう心配していました。
そうしましたら、ある日、男の子が「うちのお父さんとお母さん、離婚するんだ」って、誰彼かまわず言うんですね。これは冗談やふざけて言える言葉じゃない。子供が「助けて!」って言ってるんだなって思いまして、さっそくお母さんをお呼びして事情をお聞きしました。すると、お母さんは、「はい。昨夜、離婚することを子供に言いました。男の子ですし、もう5歳ですから、わかると思いまして」と言うんですね。
冗談じゃないですよね。びっくりしました。でも、お母さんも子育てに家事に仕事にと精いっぱい働いてるんだろう、その気持ちを大切にしよう、そう思いながらお話をうかがっておりました。
その間、子供たちは園長先生に、なんか叱られるんじゃないか、自分の悪口を言われるんじゃないかと思って、もう応接室を出たり入ったりウロウロウロウロしていて、話ができるような具合じゃありませんでした。でも、そのうちに、どうも自分の味方になってくれているらしいと。私がそういう話をしているらしいということがわかったらしくて、しばらくしてから別の部屋で、先生と一緒に静かに待ってくれるようになりました。

「うちの子はわかるはず」

 両親は警察官なんです。お父さんはエリートの役職。お母さんは努力家なものですから、昇級試験を受けるために、毎日夜の10時、11時の帰宅だそうです。
それでお父さんが子供たちの送り迎えや、お風呂に入れたり夕食の支度をしたりということで、一生懸命やってるお父さんの姿が、職員の間では評判でした。
ですから、そのお母さんにこう言ったんです。
「お父さん、一生懸命やってますよね、ホントに。お母さんに協力して、偉いですよね」
「それがイヤなんです! それがたまらないんです。恩に着せられるのが、これ以上我慢ができないんです! おまけに暴力まで振るうんです!」
「今でさえ子供が手をつけられないほど暴れているのに、離婚したら、これから先成長するにつれて、社会で起きている少年犯罪という姿でお母さんに返ってくるんじゃない? そうしたら、お母さん、今より何十倍も大変な思いしますよ。苦労するんじゃないの?」
「うちの子はちゃんとわかるはずです。私が話して聞かせます。話せばわかります」
そんなことあるわけないですよね。
「お母さん、そういう非行少年とか、扱ったことないんですか?」
「私は非行少年係です」
「じゃあ、非行少年の実態はお母さんが一番よく知ってますよね」
「そういうふうになる元は、夫婦の離婚が原因であったり、家庭不和が原因であったりっていうことがほとんどです」
お母さんが自分で言うんです。
「それを自分がやろうとしてるんですよ」
「うちの子は大丈夫です」
その一点張りなんです。
回を重ねないとお母さんにわかってもらえないだろうということで、1時間から2時間くらい子供たちと職員を残して、4カ月くらいの間に5、6回お話し合いをしました。
でも、最後に言った言葉が、
「もうこれ以上、私に話すことは何もありません。これからは、2人の子供をどうするか。それから、お金の問題とか家のローンの問題とか。そういったことを、1年先になるか2年先になるかわからないけれども、弁護士を入れて進めてまいります」と。

聞いてくれる人がいてよかった

 私は、大の大人がついていて何もできない自分の無力感というか、悔しいというか……。ホントに、保育の仕事をこの先も続けていく自信がなくなりました。
そんな辛い日々を過ごしておりましたけれども、1カ月ぐらいして、そのお母さんに呼び止められました。「先生、実は……」って言うんですね。
あ、いよいよきたかな!? いよいよ話が決まっちゃったかな。そう思って「どうしたの?」って聞きましたら、「離婚しないで、これからも一緒に続けることにしました」って。
ホントにうれしかったです。思わずお母さんの手を取って飛び跳ねてしまいました。
うちの保育園はもう50年経ってますから、オンボロ園舎なんです。今、建て直しの話が出てますが、その建て直しの話が決まったよりもっとうれしかったですね。
そして、お父さんにも2、3回お会いして、お父さんの気持ちもうかがっていましたから、お父さんにも会って、「お父さん、本当にありがとう」って、そのうれしさをお伝えしました。
実は、離婚を思いとどまった理由というのが、今まで同じ職場にいたのが、夫婦間でゴタゴタしていたために、とんでもない遠くへバラバラに移動させられちゃったんです。そうしましたら、2人が協力しないと子育てができない。それで、「これから頑張ってみます」ということでした。
私が話をしたことが、プラスになったかどうかはわかりません。でも、去年の運動会に、お父さんがビデオカメラを担いで、 お母さんがバスケットにお弁当を詰めて、子供たち二人がニコニコと一緒に参加していた姿を見て、本当に感動いたしました。
その後、落ち着いてからお母さんにうかがってみました。「私がお母さんの心の中にズカズカと入り込んだこと、イヤじゃなかったかしら」って。そうしましたら、「話を聞いてもらって、すごく気持ちが楽になりました。聞いてくれる人がいて、ホントによかったです」って言ってくれました。その言葉を聞いた時に、また一生懸命にやるぞ!って、力をいただきました。
まだまだ保育園には、そうした予備軍がたくさんいます。これからも相手を思う気持ちを、子供たちの思いを大事にして、頑張っていきたいと思います。

(大きな乗りもの 2002年3月号)

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